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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)3295号 判決

原告

達川こと徐守

被告

橋本昌則

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告に対し、三〇〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成三年八月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して原告に対し、五八四万二一五四円及びこれに対する平成三年八月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、高速道路の追越し車線上でスピンして停止した普通乗用自動車(事故車〈1〉)が走行車線に後退したため、同車との追突を避けるべく同車線の後続車両である普通乗用自動車(被害車両)が急停止したところ、さらにその後続車両である普通乗用自動車(事故車〈2〉)が被害車両に追突し、被害車両が修理代、代車費用等の損害を負つた事故に関し、被害車両の所有者が事故車〈1〉、〈2〉の各運転者を相手に民法七〇九条に基づき、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成三年八月三〇日午後五時二〇分ころ

(二) 場所 福井県福井市荒木別所地籍北陸自動車道上り線九九〇KP先路上(以下「本件事故現場」ないし「本件道路」という。)

(三) 事故車〈1〉 被告橋本昌則(以下「被告橋本」という。)が運転していた普通乗用自動車(なにわ五六は一三三九、以下「橋本車」という。)

(四) 事故車〈2〉 被告松尾龍二(以下「被告松尾」という。)が運転していた普通乗用自動車(三重八八ほ八二七、以下「松尾車」という。)

(五) 被害車 原告が所有し、かつ、達川こと徐茂(以下「茂」という。)が運転していた普通乗用自動車(京都三三な五〇五一、以下「原告車」という。)

(六) 事故態様 高速道路の追越し車線上でスピンして停止した橋本車が走行車線に後退したため、同車との追突を避けるべく同車線の後続車両である原告車が急停止したところ、さらにその後続車両である松尾車が原告車に追突したもの(弁論の全趣旨)

2  損益相殺

被告松尾は、原告に対し、本件事故により生じた損害に関し三〇〇万円を支払い、同損害については填補済みである。

二  争点

1  無過失ないし過失相殺

(被告橋本の主張)

被告橋本は、本件事故現場において、当初追越車線を走行中、橋本車を追い抜いた大型トラツクにより、水しぶきを浴び、視界を失つたため、ブレーキをかけたところ、橋本車がスピンし、追越車線上で車体が斜めに向いて停止したが、その際、追越車線上の後続車両である訴外横山公俊(以下「横山」という。)運転の普通乗用自動車(以下「横山車」という。)が橋本車より約一〇メートル手前に停止し、横山は、パーキングウインカーを点滅させて、後方の安全を確認後、被告橋本に対し、後退し、走行車線に戻るよう合図したため、被告橋本は、橋本車を後退させ、体勢を立て直し、時速五〇キロメートルまで加速し、走行車線を一〇〇メートル程進行していたところ右走行車線において、本件事故が発生したものであり、被告橋本には、原告車がいかなる理由により急制動の措置を講じる必要があつたのか不可解である。

したがつて、被告橋本は、本件追突事故の発生と無関係である。

(被告松尾の主張)

本件事故は、原告車が高速道路上で急停止したために発生したものであり、不可抗力である。高速道路上で、突然、前方を走行する車両が急停止することは通常予想されず、予見義務は存しない。

2  原告車の修理代

(原告の主張)

本件事故により、原告車には、後部、床面、左側面及び屋根の部分に損傷が生じ、特に後部床面に重大な損傷が生じている。原告車は、モノコツクボデイーの車両であり、シヤーシ、ボデイー全体の張力で強度を保つ構造となつているため、重大な損傷が生じた場合、損傷部分だけを切り取つて修理しても、外形上はともかく、将来問題が生じるおそれが強い。

被告らは、ボデイー全体を取り替えるのは少なくとも三面の取り替えが必要な場合に限られ、本件では部分修理で十分であると主張するが、その根拠は、三面以上を部分修理するのであれば、全体を取り替えても費用の差がないからとの経済的理由にあるのであり、構造上問題がないか否かという修理の適否が根拠となつているのではない。特に、本件では、二面の取り替えは必要であるばかりでなく、左側面、屋根にも問題が生じているのであるから、被告らの主張は理由がない。

仮に、原告車の修理が部分修理で足りるとしても、その修理費用は、被告らの主張するような三八〇万円余りの金額で済むことはない。何故なら、被告らが根拠としているのは、外見上の見積金額にすぎないのであり、現実に車両を開いて検討すれば、さらに見積額が増大することは当然であり、しかも、その基準とされている工賃は、保険会社の基準によつているにすぎず、修理業者に依頼した場合、さらに工賃が増すことは十分に考えられるのであるから、被告らの主張は失当である。

(被告らの主張)

原告車の修理について、ボデイシヤーシの交換は不要である。原告車については、ボデイ後部を切断し、代わりのボデイをスポツト溶接し、シヤーシもゲージによる修正により復元可能であり、また、本件原告車の損害の程度に鑑みれば、被告主張の修理方法が通常である。ボデイシヤーシの取り替えが為されるのは、ルーフ、フロア、両サイド、前後ボデイ(運転席、後部座席とフロント、リアとの境)の六面のうち、四面以上が大破したような場合で、その場合は、全損に近い場合で、修理金額も時価額と同程度の額になる場合が多いものである。

結局、原告は、通常の修理方法ではなく、より費用のかかる修理方法を不当に選択主張しているに過ぎず、被告主張の修理方法により修理可能であり、かつ、費用も低廉で、それが通常為される修理方法である以上、被告らの主張する修理方法が損害賠償としては妥当と言わざるを得ない。

3  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  被告らの過失の有無、過失相殺

1  事故態様

前記争いのない事実に加え、甲第一、第二号証、第三号証の1ないし3、第四号証、乙第一号証の1、2、第二ないし第四号証、検乙第一号証の1ないし8、証人横山公俊、原告本人尋問の結果、被告橋本・松尾各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一) 原・被告ら及び横山はいずれも建築関係の仕事仲間であり、本件事故日、福井国際ゴルフ場でゴルフをした後、その帰路、それぞれ酒気を帯びた状態で普通乗用自動車を運転し、本件道路を走行していた。当時、本件道路の幅員は約三・四メートルであり、走行車線の外側に約二・八四メートルの路側帯があり、降雨のため、制限速度時速五〇キロメートルに規制され、随所に水たまりが生じ、路面は湿潤状態にあつた。

(二) 被告橋本は、橋本車を運転し、時速約一〇〇キロメートルの速度で本件道路追越車線を走行中、前方を走行する大型トラツクのため前方が見えず、急制動の措置をとつたところ、同車がスピンし、追越車線上で車体が斜めに向いて停止した。

(三) 横山は、橋本車の後方スモールランプを点け、追越車線を時速約八〇キロメートルで走行中、停止している橋本車を発見し、橋本車の約一〇メートル後方に停止し、停止表示灯を点灯させた。当時、たたきつけるような激しい降雨のため、見通しが可能な範囲は、約六〇ないし七〇メートル程度に制限されていた。

(四) 被告橋本は、(二)記載の停止後、走行車線を走行する車両の有無、動静を確認することが困難であつたにもかかわらず、十分な確認を怠つたまま、切替えしのため、橋本車を後退させ、走行車線と追越車線とを区切る白線から約一メートル弱、自車後部を走行車線に進出させて停止し、その後、切替えし、追越車線を走行した。

(五) 原告は、弟の茂に原告車を運転させ、本件道路の追越車線を時速約一〇〇キロメートルで走行中、横山車が停止表示灯を点灯させて、停止していることに気付き、茂に指示し、走行車線に車線変更した。その後、茂は、時速六〇ないし七〇キロメートルの速度で走行したところ、約五〇ないし六〇メートル右前方の追越車線に停止していた橋本車が追越車線から走行車線へと後退して来たことに気付き、急制動の措置をとり、同車に追突することなく約一〇メートル手前で停止した。

(六) 被告松尾は、時速約一〇〇キロメートルの速度で約七〇ないし八〇メートルの車間距離をとり、原告車を追従していたが、同車が減速しながら、走行車線に車線変更したので、同様に時速約七〇ないし八〇キロメートルに減速しつつ同車線に車線変更した。その後、同被告は、原告車のブレーキランプがともり、制動措置を講じたことに気付いたので、自らも急制動の措置を講じたが、路面が濡れていたこと及び原告車であるベンツとの制動能力の差から停止し切れず、自車を原告車に追突させた。

2  被告らの過失の有無、過失相殺

(一) 前記認定事実に基づき、被告らの過失の有無、過失相殺について検討すると、被告橋本は、追越車線から走行車線へ後退し、切替えしを行う場合、走行車線を走行する車両の有無、動静を十分に確認する義務があつたにもかかわらず、後方確認を十分に行わないまま、切替えしのため、橋本車を後退させ、走行車線と追越車線とを区切る白線から約一メートル弱、自車後部を走行車線に進出させた過失がある。また、同松尾は、降雨のため、制限速度が時速五〇キロメートルに規制されていたにもかかわらず、約七〇ないし八〇キロメートルの速度で原告車に追従し、かつ、約七〇ないし八〇メートルの車間距離しかとらずに走行した過失がある。

両者の過失は、時間的・場所的に近接しており、両者があいまつて本件事故による一個不可分の結果が発生したと認められるから、社会観念上、客観的関連共同性を有するというべきであり、民法七一九条一項前段の共同不法行為に当たると解される。

(二) 他方、茂には、横山車が追越車線に停止灯を点して停止するなど、異変が生じたことは認識し得たのであり、また、当時、路面が降雨のため濡れていたのであるから、走行車線に車線変更して同車のそばを通過するに際しては、減速し、不測の事態に備えるべき注意義務があるところ、制限速度が時速五〇キロメートルに規制されていた本件道路を時速一〇ないし二〇キロメートル超過する速度で走行した過失がある。また、茂が橋本車が後退して来るのを発見したのは、本件事故現場の約五〇ないし六〇メートル手前であり、同車が走行車線と追越車線とを区切る白線はみ出たのは、同白線から約一メートル弱に過ぎなかつたところ、走行車線の幅員は約三・四メートルあり、さらに、その左側に約二・八四メートルの路側帯があつたのであるから、前方を十分注視の上、ハンドル操作を適切に行えば、減速後停止を完了することなく追突を回避し得たところ、右措置を講じなかつた過失がある。

したがつて、被告橋本・同松尾の過失(共同不法行為)と原告の過失とを対比すると、茂には、本件事故の発生に関し二割の過失があると解するのが相当である。かかる場合、所有者であり、かつ、弟である茂に対し運転をさせ、原告車を支配・管理していた原告と被告らとの関係では、右茂の過失は原告側の過失として評価するのが相当であるから、過失相殺により、後記原告に生じた損害から同割合を減額すべきことになる。

二  損害

1  修理費(主張額七一四万二一五四円)

(一) 原告車の修理費の額の相当性について、コスモ自動車に勤務する証人阿部修(以下同人の証言を「阿部証言」という。)は、原告車は、通常の車両のようにシヤーシーとボデイーとを金具で止めているのではなく最初から両者が一体となつているモノコツクボデイーであり、原告車の損傷ないし歪みがセンターピラーにまで及んでいる以上、モノコツクボデイーのボデイーコンプリート自体を取り替えずに、その一部を切断し溶接するという修理方法をとつた場合、歪みないし溶接部の亀裂が生じやすくなり、安全性の点で相当ではないと証言し、他方、日本損害保険協会技術アジヤスター奥澤正巳(以下同人の証言を「奥澤証言」という。)は、モノコツクボデイーは、フロアー、天井、両サイド、車両のリアー、フロントの六面で構成されており、各面の接続部分はスポツト溶接されているところ、原告車に関し交換が必要であるのはリアーとフロアーの二面のみであり、面相互のスポツト溶接に関し、修理の場合は新車の二割増し程度溶接点を増やして実施しており、現在は溶接技術も進歩しているので強度の面で問題はなく、経済的には三面以上を取り替えるのであれば全部を取り替えても金額的に大差がないので、二面の交換で済む場合には、部分交換にとどめるべきと証言する。

(二) そこで検討すると、モノコツクボデイーは、フレームを軸に様々なパネルが溶接されボデイーが構成されているのではなく、ボデイーを六面に分けたパネルが相互のスポツト溶接されて構成されているところ、右奥澤証言によれば、本件においては、破損部位が二面の範囲に止まつている上、パネルのスポツト溶接時には、通例、溶接点を二割程増やし、丹念な修理が行われていること、また、センターピラーにも歪みが生じているが、さほどのものではなく、修理が可能であると考えられることがそれぞれ認めれるから、モノコツクボデイというだけで当然にボデイー全部を交換すべきとする阿部証言は、にわかに採用できない。

しかし、他方、奥澤証言によれば、自らが作成した見積書である自動車車両損害調査報告書(見積額三八三万六八〇〇円、丙第一号証)は、原告車を解体し、内部を点検してのものではなく、外観のみによる概算であることか認められ、十分な検討を経たものとは言えないから、同車の修理費が右見積額で足りるということはできない。

したがつて、本件においては、甲第二号証の見積書(見積額は、代車料、手数料を除き六八一万九一三〇円)をもとに、不要な費用を減額する方法により算定するのが相当であるので、次に、この方法により検討する。

(三) 右甲第二号証の見積もりによれば、部品代は合計四四二万四一三〇円とされているが、このうち、ボデイコンプリート代二〇一万九二〇〇円は、前記のとおりボデイ全体の取り替えの必要性は認め難いので全額認めるのは相当ではないこと、部品代の中には取り替えではなく修理で済むものが含まれていると考えられることを考慮し、三割を差し引く(四四二万四一三〇円×〇・七)と、残額は約二九五万円(一万円以下の端数が生じるが、より控え目な認定として、切り捨てることとする。)となり、また、工賃は合計三九一万円とされているが、本来工賃と無関係な代車料一二〇万円、番号手数料三万五〇〇〇円、車体番号変更手数料八万円は、除外すべきであるから、本来の工賃は、全脱着組替調整費一三八万円、内部及び外部サフエンサー等一二〇万円など(さらにトランクキーシリンダーの工賃を加算すると合計二五九万五〇〇〇円)に限られるところ、前同様の理由で全額を認めるのは相当ではないから、三割を差し引く(二五九万五〇〇〇円×〇・七)と、残額は約一八一万円となる。したがつて、右二九五万円と一八一万円とを加えると、合計は、四七六万円余となるから、四七六万円をもつて原告車の修理代と認めるのが相当(一万円以下の端数が生じるが、より控え目な認定として、切り捨てることとする。)である。

(四) 甲第二、第六、第七号証及び阿部証言によれば、原告車は、本件事故の約二週間前、中古車として七六〇万円の代金で購入したこと、本件事故後、現実の修理は行われないまま、平成三年九月一五日ころ、一〇〇万円で下取りされたことがそれぞれ認められる。そして、右下取代金を差し引いた六六〇万円は、前記修理費相当額四七六万円を上回るから、本件事故による原告車の車両自体の損害は四七六万円とみるのが相当である。

2  代車料(主張額一二〇万円)

甲第二号、阿部証言によれば、原告は、原告車の代車として、ベンツを一日三万円で借り受け、原告車をコスモ自動車に下取に出した際、下取代金と相殺する方法により代車費用として一〇〇万円を支払つたこと、新車が納車予定日は本件事故から三三日後の平成三年一〇月二日ころであつたことがそれぞれ認められる。阿部証言によれば修理の予定日数は四〇日とされ、奥澤証言によつても、原告車を修理に着手しても三〇日は要することが認められること、その他修理の要否、方法を検討し、部品を入手するなどの期間が必要であることを考慮すると、右三三日という代車使用期間は不当なものとはいえないから、本件事故と相当因果関係が認められる代車料としての損害は九九万円(三万円×三三日)と解するのが相当である。

3  評価損(主張額一五〇万円)

原告車が外国車として高級車の典型であるベンツであること、修理をする場合、モノコツクボデイの六面のパネルのうち、二面の取り替えが必要であること、下取価格は一〇〇万円と評価されたにすぎないことなどを考慮すると、本件事故により原告車に関し、前記修理費相当額の三割(四七六万円×〇・三)弱に当たる一四二万円の評価損が生じたと認めるのが相当である。

4  小計

以上の損害を合計すると、七一七万円となる。

三  過失相殺、損害の填補及び弁護士費用

1  前記のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた損害から二割を減額するのが相当であるから、同減額を行うと、残額は、五七三万六〇〇〇円となる。

2  被告松尾が原告に対し、本件事故により生じた損害に関し三〇〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがないから、前記過失相殺後の損害額から右額を差し引くと残額は二七三万六〇〇〇円となる。

3  本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告にとつて、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は二七万円が相当と認める。

前記損害合計二七三万六〇〇〇円に右二七万円を加えると、損害合計は三〇〇万六〇〇〇円となる。

四  まとめ

以上の次第で、原告の被告らに対する請求は、連帯して三〇〇万六〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成三年八月三一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

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